シンガポール流「探究学習」の始め方：日本の小学校現場で活かせる具体的なステップ
探究学習、どう始めますか？シンガポール教育からのヒント
日本の小学校教育においても、「総合的な学習の時間」などを通じて、子供たちが主体的に課題を見つけ、解決に向けて探究する力の育成が重視されています。しかし、「具体的にどう進めれば良いのだろう？」「時間も限られている中で、どこから手をつければ？」と、日々の忙しさの中で悩む先生方もいらっしゃるかもしれません。
教育先進国として知られるシンガポールでは、PISA（OECD生徒の学習到達度調査）で常に上位の成績を収めており、その教育システムの鍵の一つに「探究学習」が挙げられます。シンガポールの探究学習は、知識の詰め込みではなく、子供たちが自ら考え、問題解決する力を育むことに重点を置いています。今回は、そんなシンガポール流の探究学習のエッセンスから、日本の小学校現場で活かせる具体的なヒントを探っていきましょう。
シンガポールの探究学習：なぜ重視されるのか？
シンガポールでは、「未来の変化に対応できる力の育成」という視点から探究学習を非常に重視しています。単に教科の知識を習得するだけでなく、現実世界の問題に関心を持ち、様々な情報源から学び、多様な人々と協力しながら解決策を見つけ出すプロセスそのものを大切にしています。
小学校段階では、身近な疑問や興味からスタートすることが多く、例えば「学校の庭にどんな生き物がいるのだろう？」「なぜ橋は落ちないのだろう？」といったシンプルな問いから探究が始まります。教員は知識を教え込むのではなく、子供たちが自分で問いを立て、調べる方法を学び、考えを深められるようにサポートする役割を担います。
日本の小学校現場で活かすための具体的なステップ
シンガポールの探究学習の考え方を踏まえ、日本の小学校現場で無理なく取り入れられる具体的なステップやアイデアをご紹介します。
ステップ１：小さな「問い」を見つけることから始める
- ヒント：日常や教科書の中にある「なぜ？」「どうして？」を拾う
- 壮大なテーマでなくても構いません。国語の物語の登場人物の気持ち、算数の図形の性質、理科の観察で見つけた不思議、社会科で学ぶ地域の特色など、教科の内容から子供たちが疑問に思ったことを書き留める時間を設けてみましょう。
- あるいは、「給食の残りを減らすには？」「もっと楽しく遊ぶには？」など、学校生活の中の身近な課題から問いを探すのも良い方法です。
- 実践アイデア：
- 「今日のなぜなぜボックス」のような箱を教室に置き、子供たちが気になったことを書いた付箋を自由に入れられるようにする。
- 単元のはじめに、「この単元で知りたいこと、不思議に思うこと」を自由に書き出すブレインストーミングを行う。
ステップ２：「問い」を広げ、探究の方向性を定める
- ヒント：一人ではなく、仲間と一緒に考える
- 見つかった問いについて、グループで話し合い、「もっと知りたいことは？」「どうやって調べられる？」とアイデアを出し合います。これにより、問いがより具体的になったり、新たな問いが生まれたりします。
- 教員は、子供たちの興味や発達段階に合わせて、探究できる範囲や深さについてサポートします。
- 実践アイデア：
- ホワイトボードや大きな紙を使って、問いから連想されること、調べたいことを線でつないでいくマインドマップを作成する。
- いくつかのグループに分かれ、それぞれが選んだ問いについて、「何を」「どうやって」調べるか簡単な計画を立てる。
ステップ３：情報収集と整理の方法を学ぶ
- ヒント：多様な情報源に触れる経験を
- 図書室の本だけでなく、インターネット（安全なサイトの利用法を指導）、地域の人へのインタビュー、専門家への手紙、見学など、様々な方法で情報を集めることができることを伝えます。
- 集めた情報をただ書き写すのではなく、自分の言葉でまとめたり、図や表で整理したりする方法を教えます。
- 実践アイデア：
- 図書館司書の方と連携し、調べ学習のオリエンテーションを実施してもらう。
- 地域のお店や公共施設について調べる際に、事前に質問を考え、可能であれば見学やインタビューを企画する（難しい場合は、写真やパンフレットの活用でも良い）。
ステップ４：まとめ、表現し、伝え合う
- ヒント：アウトプットの方法は様々に
- 探究した内容をまとめる方法は、発表会だけでなく、壁新聞、模造紙、パワーポイント、寸劇、レポート、作品制作など、子供たちが得意な方法を選べるようにします。
- 友達や他の学年の児童、保護者などに発表する機会を設けることで、学びを他者に伝える力を養います。
- 実践アイデア：
- 各グループが探究のプロセスと結果を簡単に発表する時間を設ける。発表後には、聞いている側からの質問や感想を受け付ける。
- 教室や廊下に探究の成果物を展示する。
ステップ５：振り返りと次の探究へ
- ヒント：何が分かったかだけでなく、どう学んだかを振り返る
- 探究活動全体を通して、「何が一番心に残ったか」「難しかったことは何か」「友達と協力してどう感じたか」「次に探究したいことは何か」などを振り返る時間を大切にします。
- この振り返りが、次の探究への意欲につながります。
- 実践アイデア：
- 振り返りシートを作成し、活動内容と学んだこと、次の課題などを記入させる。
- グループで振り返りを行い、お互いの頑張りや学びを認め合う。
忙しい中でも取り組むには？
「探究学習は時間がかかる」と思われがちですが、必ずしも大規模なものである必要はありません。例えば、特定の教科の時間内で数時間を使った小さな探究、週に一度の「探究タイム」の設定、あるいは既存の学習内容に「問いを見つける」「調べる」「まとめる」といった探究の視点を少し加えるだけでも、学びは深まります。
また、全てを子供たち任せにするのではなく、教員が「このことについて調べてみようか？」とテーマの方向性を示したり、情報収集の足がかりを提供したりすることも、探究のスタートとしては有効です。完璧を目指すより、まずは一歩、子供たちの「なぜ？」を大切にする時間を作ってみませんか。
まとめ
シンガポールの探究学習は、子供たちが変化の激しい社会で生き抜くための「自ら学び、考え、解決する力」を育むことを目指しています。日本の小学校現場においても、ご紹介したような小さなステップから探究の要素を取り入れていくことで、子供たちの学習への主体性や探究心を高めることができるはずです。
全ての子供たちが、学びの楽しさや、自分で問いを立て答えを探すことの面白さを実感できるよう、今日からできる探究のエッセンスを授業や学級運営に取り入れてみてはいかがでしょうか。