教科を越える学び!:フィンランドの現象ベース学習エッセンスと小学校現場での具体的な取り入れ方
はじめに:教科の枠を超えた学びへの期待
日本の小学校教育では、各教科を専門的に学ぶことが大切にされています。一方で、「子供たちが現実社会とつながる学びをもっと深められたら」「教科の知識がバラバラにならず、有機的に結びつくような学びをデザインできないか」と感じる先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。現代社会が複雑化し、予測困難な時代と言われる中、子供たちには特定の知識だけでなく、様々な事柄を結びつけて考え、未知の課題に取り組む力が求められています。
このような背景から、フィンランドで注目されている「現象ベース学習(Phenomenon-Based Learning)」は、日本の小学校現場に多くの示唆を与えてくれます。単なる知識習得に留まらず、子供たちが身近な現象を通して主体的に探究するこの学習法は、日本の教育が目指す方向性とも重なる部分が多いと言えるでしょう。
本記事では、フィンランドの現象ベース学習のエッセンスをご紹介し、日本の小学校教育の現状を踏まえながら、日々の授業に取り入れるための具体的なヒントを探ります。多忙な先生方でも「これなら試せるかもしれない」と思えるようなアイデアをお届けできれば幸いです。
フィンランドの現象ベース学習とは?
フィンランドでは、2016年の新しい学習指導要領(National Core Curriculum)から、教科を横断する「現象ベース学習」の考え方が強く打ち出されるようになりました。これは、特定の教科の枠にとらわれず、現実世界の出来事やテーマ(現象)を起点として学びを進めるアプローチです。
例えば、「エネルギー」「水」「地域社会」「メディア」といった具体的な現象をテーマに設定します。子供たちは、その現象について、様々な教科(理科、社会、算数、国語、図工、家庭科など)の視点から問いを立て、情報を集め、考え、表現します。
なぜ「現象」から学ぶのか?
- 現実世界とのつながり: 子供たちは、学校で学ぶことが現実世界とどうつながっているのかを実感しやすくなります。
- 教科横断的な理解: 一つの現象を多角的に捉えることで、異なる教科の知識やスキルが有機的に結びつき、深い理解につながります。
- 主体性と探究心: 自分たちの身近な現象に対する疑問から出発するため、学習への興味・関心が高まり、主体的に探究する姿勢が育まれます。
- 思考力と協働力: 問いを立て、解決策を考え、他者と協働しながらプロジェクトを進める中で、高次の思考力や社会性が養われます。
フィンランドでは、年間を通じて少なくとも1回、長期間にわたる現象ベース学習プロジェクトを実施することが推奨されていますが、その期間や内容は学校や先生の裁量に委ねられています。
日本の小学校現場で現象ベース学習を取り入れるヒント
フィンランドの現象ベース学習をそのまま日本の教育システムに当てはめることは難しいかもしれません。しかし、そのエッセンスを取り入れ、日本の小学校現場で実践可能な形にアレンジすることは十分に可能です。
1. 身近な「現象」を見つける
まずは、子供たちの興味を引きそうな身近な「現象」を探すことから始めます。
- 学校の中: 「なぜ水道の水が出るのだろう?」「学校の植物はどうして育つのだろう?」「給食はどうやって学校に届くの?」
- 地域: 「なぜこの地域に〇〇があるのだろう?」「地域の川や山はどうなっているのだろう?」「お店で売っているものはどこから来るの?」
- 日常生活: 「なぜ電気で明かりがつくの?」「どうしてスマートフォンで遠くの人と話せるの?」「なぜ雨が降るのだろう?」
子供たちとの対話を通して、「不思議だな」「知りたいな」と感じる現象を一緒に見つけることが、学びの第一歩となります。
2. スモールスタートで試す
いきなり大規模なプロジェクトを行う必要はありません。まずは、以下のステップでスモールスタートすることをおすすめします。
- 短い期間で実施: 1〜2時間程度の短い時間や、数日間の単元の一部として取り入れてみる。
- 特定の教科と連携: 例えば、理科の「水のすがた」の単元で、「身近な水の現象」として地域の川やプールの水をテーマにするなど、関連する教科を中心に据えながら、社会科で地域の水利用を調べたり、国語科で調べたことをまとめたりするなど、他の教科の視点も少し加えることから始められます。
- 「総合的な学習の時間」を活用: 総合的な学習の時間は、教科横断的な学びを行うのに最も適した時間です。ここで、子供たちの興味に基づいた「現象」を深く探究する活動を取り入れます。
3. 「問い」を中心に据える
現象ベース学習の中心は、子供たちが自ら立てる「問い」です。「なぜ?」「どうして?」「もし〜だったら?」といった問いが、子供たちの探究心をかき立てます。
先生は、子供たちが問いを立てやすいように促したり、立てられた問いを整理したりするサポートを行います。答えを教えるのではなく、問いを探究するプロセスを重視することが大切です。
4. 具体的なアクティビティのアイデア
- 観察・調査: 学校内や地域の現象を観察したり、関連する場所を調べたりする(安全に配慮)。
- 専門家インタビュー: 地域の専門家(農家、漁師、職人、NPOなど)に話を聞きに行く、またはオンラインで繋がる。
- 実験・工作: 現象の原理を探る簡単な実験をしたり、テーマに関連するものを創造したりする。
- 情報収集: 本、インターネット、写真、動画など、様々なメディアから情報を集める。
- 表現活動: 調べたことや考えたことを、発表、レポート、ポスター、劇、歌、プログラミングなど、多様な方法で表現する機会を設ける。
- 協働学習: グループで協力して課題に取り組む活動を多く取り入れる。役割分担や話し合い、意見交換を通して、互いの学びを深めます。
5. 評価への視点
現象ベース学習では、単なる知識の習得だけでなく、探究のプロセス、協働の姿勢、多角的な視点、創造性なども評価の対象となります。ポートフォリオの活用や、子供たち同士の相互評価、自己評価なども取り入れることが考えられます。
まとめ:子供たちの「わかった!」を広げるために
フィンランドの現象ベース学習は、子供たちが現実世界の「現象」と向き合い、教科の枠を超えて探究する中で、知識を統合し、自ら学ぶ力を育む強力なアプローチです。日本の小学校現場でも、総合的な学習の時間や単元学習の一部として、そのエッセンスを取り入れることで、子供たちの学びをより豊かに、より深くすることが可能です。
「うちのクラスでも、まずはこの身近な現象から探究を始めてみようかな」「子供たちがどんな問いを立てるか楽しみだな」そう思っていただけたら嬉しいです。多忙な日々の中で新しいことに挑戦するのは大変ですが、子供たちのキラキラした目や「わかった!」という喜びの声は、きっと先生方のやりがいにつながるはずです。
現象ベース学習のエッセンスを活かし、子供たちの知的好奇心と探究心を育む学びを、一緒に創り上げていきましょう。