「答えを探す子」から「問いを立てる子」へ:海外教育エッセンスと小学校での実践ヒント
「答えを探す子」から「問いを立てる子」へ:海外教育エッセンスと小学校での実践ヒント
日々の小学校での教育活動、誠にお疲れ様です。変化の激しい現代社会において、子供たちがこれからの時代を生き抜くためには、与えられた知識を記憶するだけでなく、自ら考え、新たな「問い」を立て、主体的に学び続ける力が必要不可欠であると認識されています。
しかし、多忙な日常の中で、「どうすれば子供たちの内なる『なぜ?』を引き出し、学びにつなげられるのだろうか?」「すぐに答えを求めてしまう子供たちに、自分で問いを立てる力をどうやって育めば良いのだろうか?」と悩まれている先生方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、フィンランドやシンガポールといった教育先進国の事例から、「問いを育む」ことの重要性と、日本の小学校現場で取り入れられる具体的なヒントやアイデアをご紹介します。
海外教育にみる「問い」の重要性
フィンランド:現象ベース学習と「問い」
フィンランドの教育では、教科の枠を超えた「現象ベース学習」が注目されています。これは、身の回りの出来事や現象を起点に、子供たちが自ら「なぜそうなるのだろう?」「どうなっているのだろう?」といった問いを立て、様々な教科の知識やスキルを統合しながら探究していく学習スタイルです。
ここでは、教師は一方的に知識を教えるのではなく、子供たちの問いを引き出し、探究のプロセスを支援するファシリテーターの役割を担います。子供たちは、自分たちの興味や疑問から生まれた問いを深める過程で、学びの主体者となっていきます。遊びや自然体験の中からも、子供たちの素朴な「なぜ?」を大切にし、それを学びにつなげていく文化があります。
シンガポール:思考スキル教育と「良い問い」
シンガポールの教育では、PISA(生徒の学習到達度調査)でも高い評価を得ている思考スキル教育が重視されています。単に知識を詰め込むのではなく、情報を批判的に分析し、論理的に考え、問題を解決する力を育むことが目標です。
この思考スキル育成においても、「問い」は重要な要素です。例えば、問いの種類(事実を問う問い、説明を求める問い、比較する問い、評価する問いなど)を意識させたり、複雑な問題を解決するために、まずどのような「良い問い」を立てるべきかを考えさせたりします。これは、子供たちが受け身ではなく、自ら学びを深めるためのエンジンとして「問い」を活用することを促すアプローチと言えるでしょう。
これらの事例からわかるのは、どちらの国も、子供が「答え」を待つのではなく、自ら「問い」を立て、その問いを起点に学びを進める姿勢を大切にしているということです。
日本の小学校現場で活かせる実践ヒント・アイデア
海外の事例を参考に、日本の小学校の日常的な教育活動の中で、「問いを育む」ためにできる具体的な工夫をいくつかご紹介します。
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発問の工夫:オープンクエスチョンを取り入れる
- 「〜ですか?」のような「はい/いいえ」で終わるクローズドクエスチョンだけでなく、「なぜ〜だと思う?」「もし〜だったらどうなるだろう?」「〜について他にどんなことが知りたい?」のような、多様な考えや答えを引き出すオープンクエスチョンを意図的に増やす。
- 特に、新しい単元に入るときや、調べ学習を始めるときに、「このテーマについて、みんなが不思議に思うこと、知りたいことは何かな?」と問いかけ、子供たちの疑問を起点にする。
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「問い」を受け止め、共有する場を作る
- 子供たちが授業中や日常で感じた素朴な疑問や「なぜ?」を気軽に書き留められる「疑問ボックス」や「ふしぎ発見ノート」を用意する。
- 集まった疑問をクラス全体で共有する時間を設ける。「〜さんの疑問、面白いね!」「これについて知っていることはあるかな?」「どうやったらこの疑問を解決できるかな?」などと、子供たちの問いをみんなの学びに広げる。
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すぐに答えを教えない時間を持つ
- 子供から質問が出たときに、すぐに正解や答えを教えるのではなく、「良い質問だね。〇〇さんはどう思う?」「△△くんの考えも聞いてみようか」「どうやったらその答えが見つかるかな?」と、一度子供に考えさせたり、他の子供に投げかけたりする時間を意識的に作る。
- 教師が「知らない」ことや、答えが一つではない問いに対して、子供たちと一緒に考えたり調べたりする姿勢を見せる。
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身の回りの現象や日常の出来事を学びの出発点に
- 理科の授業で「朝顔のつるはなぜ右巻き(または左巻き)なのだろう?」、社会科で「この地域に昔から伝わるお祭りには、どんな意味があるのだろう?」、生活科で「雨が降った後、運動場の水たまりはなぜ乾くのが遅いところと早いところがあるのだろう?」など、身近な「ふしぎ」から学びを始める。
- 教科書の内容に入る前に、関連する写真や短い動画を見せ、「ここからどんな疑問が生まれる?」と問いかける。
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探究のプロセスを大切にする
- 子供たちが立てた問いに対して、すぐに結論を急がせず、どうやって調べたり、実験したりすれば良いか、共に考える。
- 途中でうまくいかなくても、「なぜだろう?」と問い直し、別の方法を考えたり、新たな疑問を見つけたりするプロセスそのものを価値づける。
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教師自身が「問い」を持つ姿勢を示す
- 「先生もこれ、どうしてか不思議なんだ」「これについて、先生ももっと知りたいなと思っているんだ」など、教師自身が学びに対して常に好奇心や問いを持っていることを子供たちに伝える。
- 教師が探究する姿を見せることで、子供たちも安心して自分の「問い」を表現できるようになる。
これらのアイデアは、日々の授業や学級経営の中で、少しずつ取り入れていくことができるものです。特別な時間や大掛かりな準備が必要なものばかりではありません。
まとめ
子供たちが未来を切り拓くためには、「与えられた答えを覚える力」だけでなく、「自ら問いを立て、探究する力」がますます重要になります。フィンランドやシンガポールの事例は、学びの出発点としての「問い」の力を改めて私たちに教えてくれます。
「答えを探す子」から「問いを立てる子」への変化は、子供たちの内なる好奇心や探究心を引き出し、学びを自分事として捉える上で非常に大きな意味を持ちます。もちろん、日本の教育現場には独自の文化や制約がありますが、海外の教育エッセンスからヒントを得て、日々の授業や学級運営に小さな工夫を加えていくことは可能です。
子供たちの「なぜ?」というつぶやきや、少し突飛に思える質問の中にも、学びの種が隠されています。それらを大切に拾い上げ、子供たちが安心して「問い」を立て、探究を楽しめる環境を育んでいくことが、未来を生きる子供たちの力を育むことにつながるはずです。
多忙な日々かと存じますが、この記事が、先生方の教育実践における新たなヒントとなれば幸いです。