「自分でできた!」を増やすには?:フィンランド流自己調整学習を小学校現場で活かす
導入:子どもたちの「自分でできた!」をどう育むか
日々の教育活動、本当にお疲れ様です。多忙な小学校の現場では、限られた時間の中で全ての子供たちの学びに寄り添うことは容易ではありません。先生主導の一斉授業になりがちで、「指示待ち」になってしまう子供がいることや、子供たちが学びの課題に直面したときにどう乗り越えれば良いか分からない様子を見かけることもあるかもしれません。子供たちが受け身ではなく、自ら学びを進める力を育むことは、現在の日本の教育においても重要な課題の一つです。
このような課題に対して、海外の先進教育、特にフィンランドでは、子供たちが主体的に学び、自らの学習プロセスを管理する力を育む「自己調整学習(Self-regulated Learning)」が重視されています。自己調整学習の視点を取り入れることは、子供たちの「学びに向かう力」を育み、将来にわたって自立した学習者となるための大きな助けとなります。
この記事では、フィンランドの教育における自己調整学習のエッセンスに触れながら、多忙な日本の小学校現場でも無理なく取り入れられる具体的なヒントやアイデアを探っていきます。
フィンランドが重視する自己調整学習のエッセンス
フィンランドの教育システムは、子供への深い信頼と、学びは生涯にわたるプロセスであるという考えに基づいています。自己調整学習は、この教育哲学と深く結びついています。
自己調整学習とは、簡単に言えば、自分で目標を設定し、その達成に向けて計画を立て、実行し、その結果を振り返り、必要に応じて計画を調整していく学習プロセスのことです。これは単に「一人で勉強する」ということではなく、自分の感情や動機を管理しながら、効果的な学習方法を選択し、困難を乗り越える力を含みます。
フィンランドの学校では、子供たちは幼い頃から、遊びや日常的な活動を通じて自己調整の機会を多く与えられています。例えば、与えられた時間の中でどの活動をするか自分で決めたり、自分の興味に基づいて探究するテーマを選んだり、友達と協力して課題を解決したりする中で、自然と自己調整のスキルを磨いていきます。
教師は「知識を一方的に教える人」というよりは、子供たちが自ら学ぶプロセスをサポートし、導く「ファシリテーター」や「サポーター」としての役割を強く意識しています。子供たちが目標設定や振り返りを効果的に行えるよう、適切な問いかけをしたり、多様な学びのツールやリソースを提供したりします。
日本の小学校現場で活かせる具体的なアイデア
フィンランドの教育システムや環境と日本の現場には違いがあります。しかし、自己調整学習のエッセンスは、日本の小学校の日常的な指導の中にも取り入れることが十分可能です。ここでは、明日からでも試せるかもしれない具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. 「今日のミニ目標」を設定する習慣
授業の初めに、子供たち自身にその時間で何を学びたいか、何ができるようになりたいか、簡単な目標を一つ決めさせる時間を設けます。例えば、「今日の漢字練習では、この3つの漢字を完璧に書けるようにする」「算数の問題で、つまずいたところを先生に質問してみる」など、小さな目標で構いません。学習シートの隅に目標を書く欄を設けたり、簡単な振り返りの時間を組み合わせたりすると効果的です。
2. 学習方法の「選択肢」を提示する
一つの課題に対して、必ずしも全員が同じ方法で取り組む必要はありません。例えば、漢字練習であれば「ノートに書く」「タブレットのアプリを使う」「友達とクイズを出し合う」など、いくつかの選択肢を示し、子供が自分で方法を選べる機会を作ります。もちろん、最初は誘導が必要ですが、自分で選ぶ経験が自己調整の第一歩となります。
3. 「振り返りタイム」をルーティンにする
単元末だけでなく、授業の終わりや週の終わりなどに、短時間でも良いので「振り返りタイム」を設けます。「今日の授業でできるようになったことは?」「難しかったのはどこ?」「次はどうすればできるようになるかな?」といった簡単な問いかけをします。振り返りシートを活用したり、ペアで話したり、全体で共有したりと形式は様々ですが、自分の学びを客観的に見る習慣をつけさせることが重要です。
4. メタ認知を促す問いかけ
子供が課題に取り組んでいるときや、つまずいているときに、「どうしてそのやり方を選んだの?」「この問題が難しかったのはなぜだと思う?」「もしうまくいかなかったら、次にどう試してみる?」といった問いかけを意識的に行います。これにより、子供は自分の思考プロセスや感情に気づき、意識的に学習を調整する力を養うことができます。
5. 「失敗は学びの一部」という雰囲気作り
子供が挑戦し、失敗したときに、それを否定せず、「よく挑戦したね」「ここから何を学べたかな?」とポジティブに受け止める雰囲気を作ります。失敗を恐れず、そこから学び、次に活かそうとする姿勢こそが、自己調整学習を深める上で不可欠です。先生自身の小さな失敗談を話すのも良いかもしれません。
6. 学習環境の小さな工夫
教室の中で、一人で集中したい子向けのスペース、友達と相談したい子向けのスペースなど、簡単な区切りを設けたり、様々な学習ツール(辞書、参考資料、タブレットなど)にアクセスしやすくしたりすることも、子供が自分の学習スタイルや必要に応じて環境を調整する手助けになります。
これらのアイデアは、全てを一度に行う必要はありません。まずは、クラスの子供たちの様子を見ながら、一つか二つ、無理のない範囲で試してみることから始めてみてください。
まとめ:子どもたちの「できた!」の輝きを増やすために
フィンランド教育に学ぶ自己調整学習のエッセンスは、「子供は自ら成長する力を持っている」という信頼に基づいています。教師が全てを管理するのではなく、子供自身が自分の学びの舵を取るサポートをすることで、子供たちは「自分でできた!」という成功体験を積み重ね、学びへの自信と意欲を高めていきます。
もちろん、自己調整の力はすぐに身につくものではありません。子供たちの発達段階に応じたスモールステップで、継続的に機会を提供することが大切です。忙しい日常の中で新たな取り組みを始めるのは大変なことですが、子供たちが自ら学びを深める姿を見ることは、先生方自身のやりがいにも繋がるはずです。
この記事でご紹介したアイデアが、皆様のクラスで子どもたちの「自分でできた!」という輝きを増やすための一助となれば幸いです。