五感を育む、新しい学び場:フィンランド流「屋外学習」と日本の小学校での実践アイデア
五感を育む、新しい学び場:フィンランド流「屋外学習」と日本の小学校での実践アイデア
日々の授業準備や学級運営で多忙な小学校の先生方にとって、新しい教育方法を取り入れることは時に大きな負担に感じられるかもしれません。しかし、子供たちの学びの可能性を広げるヒントは、意外と身近な場所、あるいは教室の外にあるかもしれません。
今回は、フィンランドの教育で重視されている「屋外学習」に焦点を当てます。豊かな自然を持つフィンランドならではのアプローチですが、そのエッセンスは日本の小学校現場、特に身近な校庭や学校周辺の環境でも十分に活かせるものです。子供たちの五感を刺激し、主体性や協調性を育む「屋外学習」について考え、明日からの授業に活かせるヒントを探ります。
フィンランドの「屋外学習」とは?単なる遊びではない、意図的な学び
フィンランドでは、屋外での活動が教育課程に組み込まれており、年間を通じて様々な形で実施されています。これは単に子供たちを外で遊ばせることではありません。明確な学習目標に基づき、自然環境を「生きた教科書」として活用する意図的な教育活動です。
フィンランドで屋外学習が重視される背景には、以下のような目的があります。
- 五感の発達促進: 自然の中で多様な感覚(見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わう)を使い、子供たちの認知能力や感性を豊かにします。
- 体力向上と健康維持: 自然の中での活動は、子供たちの運動能力を高め、心身の健康に貢献します。
- 自然への理解と尊重: 季節の変化や生態系に直接触れることで、自然環境への興味や理解を深め、環境保護への意識を育みます。
- 協調性と問題解決能力の育成: 屋外での活動は、チームで協力したり、予期せぬ状況に対応したりする機会が多く、社会性や非認知能力の発達を促します。
- 教科内容の深化: 理科の観察、算数での自然物の測定、国語での表現活動など、様々な教科の内容と関連付けて学ぶことができます。
日本の小学校現場で活かす!具体的なアイデアとヒント
フィンランドのような広大な自然環境がなくても、日本の小学校の校庭や学校周辺の公園、通学路など、身近な場所を工夫して活用することで、屋外学習のエッセンスを取り入れることができます。多忙な先生方でも実践しやすい具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. 身近な自然の「定点観測」
- アイデア: 校庭の一角や観察園など、特定の場所を「観測ポイント」に設定します。月に一度、あるいは週に一度など定期的にその場所を訪れ、季節の変化(植物の成長、虫の出現、気温、天気など)を観察し、絵や文章、写真などで記録します。
- ヒント: 記録用紙をあらかじめ準備しておくとスムーズです。子供たちに「どんな変化を見つけた?」と問いかけ、気づきを発表する時間を設けると、観察眼が養われます。理科や生活科、総合的な学習の時間と関連付けやすい活動です。
2. 自然素材を使った「五感で学ぶ」活動
- アイデア: 校庭や近隣で拾った落ち葉、小枝、石、木の実などを教室に持ち帰り、図工や算数、生活科の授業で活用します。
- ヒント: 落ち葉の色や形を観察して絵を描いたり、葉っぱを数えて足し算・引き算の具体物にしたり、小枝を使って図形を作ったりと、様々な教科と連携できます。「この葉っぱ、どんな匂いがするかな?」「この石はどんな手触り?」など、五感を意識させる問いかけを取り入れましょう。
3. 「音」「匂い」をテーマにした屋外散策
- アイデア: 教室から一歩外に出て、目を閉じて聞こえる音に耳を澄ませたり、様々な場所の匂いを嗅ぎ分けたりする活動を行います。
- ヒント: 「どんな音が聞こえた?」「どんな匂いがした?」と発表させ、リスト化してみるのも面白いでしょう。普段気づかない音や匂いに意識を向けることで、感覚が研ぎ澄まされます。言葉の表現力を養うことにもつながります。
4. 校庭を「探検」フィールドに
- アイデア: 校庭全体をフィールドに見立て、「〇〇色の葉っぱを5種類見つけよう」「一番大きな石はどこにある?」「地面にどんな模様があるかな?」といったミッションを設定し、子供たちが探検しながら課題をクリアしていく活動を行います。
- ヒント: ミッションカードを準備しておくと、子供たちは主体的に活動できます。チーム対抗にしたり、見つけたものを発表させたりすることで、協調性や探究心を育めます。
安全確保と準備の工夫
屋外での活動は、安全確保が最も重要です。事前に活動場所の安全を確認し、子供たちに守るべきルール(危険な場所には近づかない、植物や生き物に触る際の注意など)をしっかり伝えましょう。また、季節に応じた服装や帽子、水筒、虫よけなどの準備も必要に応じて促してください。
多忙な中で準備の手間を減らすには、活動の目的を絞り、使う道具を最小限にする、他の先生と協力して活動場所や教材を共有するなどの工夫が有効です。「全てを完璧に」と考えず、まずは短い時間から、できることからスモールスタートしてみることをお勧めします。
まとめ:屋外学習がもたらす、子供たちの「キラキラ」
フィンランドの屋外学習から学ぶことは、特別な場所や時間が必要なのではなく、「学ぶ場は教室の中だけではない」という柔軟な発想そのものです。身近な自然環境を「学びの場」として活用することで、子供たちは教科書やタブレットだけでは得られない生きた体験を通し、五感をフルに使って学ぶことができます。
土や植物に触れ、風の音を聞き、季節の移ろいを感じる体験は、子供たちの豊かな感性や探究心を育むだけでなく、心身のリフレッシュにもつながります。子供たちの「わかった!」「見つけた!」という輝く目を見れば、屋外学習が多忙な日々の中に新たな活力を与えてくれるはずです。ぜひ、できる範囲で、子供たちと一歩外へ出て、新しい学びの可能性を探求してみてはいかがでしょうか。