「点数だけでは見えない力」をどう評価?:フィンランド流評価のエッセンスと日本の小学校現場へのヒント
導入:評価のあり方、悩んでいませんか?
日々の授業準備や子供たちへの対応に追われる中で、先生方が頭を悩ませることの一つに「評価」があるのではないでしょうか。「テストの点数だけでは、子供たちの本当の成長や多様な力を見取れているのだろうか?」「もっと子供たちの学びを促すような評価はできないだろうか?」そう感じている先生もいらっしゃるかもしれません。
特に小学校の現場では、子供たちの非認知能力や主体性、協調性など、数値化しにくい力の育成も重視されています。しかし、限られた時間の中で、これらの力をどう見取り、どう評価に繋げていくかは容易なことではありません。
そこで今回は、世界的に教育水準が高いと言われるフィンランドの「評価」に注目します。フィンランドでは、テストの結果だけでなく、子供たちの学びのプロセスや多様な側面を重視する評価が行われています。その考え方や具体的な方法から、日本の小学校教育に活かせるヒントを探っていきましょう。
フィンランドの評価哲学:なぜテストが少ないのか?
フィンランドの教育は、「信頼」と「平等」の精神に基づいています。子供たちは生まれながらにして学ぶ意欲を持っており、教師は専門家として子供たちの学びを最大限にサポートするという考え方が根底にあります。このような考え方から、フィンランドでは以下のような評価のあり方が重視されています。
- 評価の目的は「学習のサポート」: フィンランドにおける評価の主な目的は、子供たちの学習進捗を把握し、一人ひとりに合ったサポートを提供することです。選抜のためや、順位付けのためにテストを行うという考え方は希薄です。
- 多様な方法での評価: 紙のテストに偏らず、教師による日々の観察、子供の作品やポートフォリオ、自己評価、教師と子供の個別面談など、多様な方法を組み合わせて子供たちの学びを多角的に評価します。
- プロセス重視: 結果だけでなく、学びに向かう姿勢、思考プロセス、協調性なども評価の対象となります。
- フィードバックの重視: 子供たちが自分の学びを理解し、次にどうすれば良いかを知るための建設的なフィードバックが非常に重視されます。
義務教育期間中、全国一斉に行われる標準化テストは基本的にありません。学校独自のテストはありますが、その結果が学校や教師の評価に直結することもありません。これは、教師が子供たち一人ひとりと向き合い、きめ細やかな指導と評価に時間をかけられるようにするためです。
日本の小学校現場で活かせるフィンランド流評価のヒント
フィンランドの教育システムをそのまま日本に移植することは難しいですが、その評価哲学や具体的な手法から、日本の小学校現場で実践できるヒントはたくさんあります。多忙な日々の中で、少しずつ取り入れられるアイデアをいくつかご紹介します。
ヒント1:日々の「観察」を意識的な評価につなげる
先生方は普段から子供たちの様子をよく観察されています。フィンランドでは、この日常的な観察が重要な評価の一つです。
- 具体的な実践例:
- 観察の「観点」を意識する: 授業中や休み時間、グループ活動などで、特定の子供の「発言の質」「友達との協力の仕方」「課題への粘り強さ」など、評価したい観点を意識して観察します。
- 短いメモを残す: 全員について行うのは難しくても、特定の子供や、印象的な学びの場面で、付箋やノートに短いメモ(日付、名前、場面、具体的な行動や発言)を残します。これにより、学期末の評価の際に、具体的なエピソードとして活用できます。
- チェックリストの活用: 授業のねらいや育成したい力に応じて、簡単なチェックリストを作成し、特定のスキルが見られたかなどを記録することも有効です。
ヒント2:子供の「自己評価」を取り入れて内省を促す
フィンランドでは、子供自身が自分の学びや成長を振り返る自己評価を重視します。これにより、子供は自己理解を深め、次の目標を立てる力が育まれます。
- 具体的な実践例:
- 簡単な振り返りシート: 授業や単元の終わりごとに、「今日の授業で一番がんばったことは?」「もっと詳しく知りたいと思ったことは?」「難しかったことは?どうすればできるようになるかな?」など、簡単な質問に答えるシートを用意します。低学年であれば、絵や記号で表現できるようにしても良いでしょう。
- 話し合い活動での活用: グループワークの後に、「自分はグループにどう貢献できたか?」「友達の良い点はどんなところだったか?」などを話し合う時間を設けます。
- 目標設定と振り返り: 学期の初めに個人目標を設定し、学期末にその達成度を自分で振り返る機会を設けます。
ヒント3:「ポートフォリオ」で学びの軌跡を見える化する
ポートフォリオとは、子供の作品や活動の記録などを体系的に集めたものです。これを見ることで、子供自身の成長や学びのプロセスが「見える化」されます。
- 具体的な実践例:
- 作品の定期的な保管: 図工の作品、作文、理科の観察記録など、子供自身が「これは頑張った」「自分の成長がわかる」と思うものを定期的にクリアファイルやボックスに保管します。
- 写真や動画の活用: グループでの発表の様子、体育の技の習得過程などを写真や動画で記録し、データとしてポートフォリオに加えます。
- 「ポートフォリオを振り返る」時間: 学期末などに、集めたポートフォリオを子供自身が振り返り、保護者懇談会などで共有する機会を設けます。先生は、ポートフォリオを見ながら子供と一緒に成長を喜び、次のステップについて話すことができます。
ヒント4:対話を通じて子供の理解を深める
フィンランドでは、教師と子供、あるいは保護者との対話が評価において重要な役割を果たします。
- 具体的な実践例:
- 「先生との時間」を設ける: 短時間でも良いので、特定の子供と一対一で話す時間(朝の会、休み時間の一部など)を設けます。学習内容についてだけでなく、学校生活全体の中で頑張っていることや困っていることを聞き、子供の状況を理解します。
- 三者面談の機会活用: 子供、先生、保護者で一緒に子供の成長を共有し、今後のサポートについて話し合う場を持つことで、多角的な視点から子供を理解し、評価に繋げることができます。
まとめ:フィンランドの評価から、日本の「子供を伸ばす評価」へ
フィンランドの評価は、単に学力レベルを測るだけでなく、子供たちの学びを支援し、自己調整能力を育むことに重点を置いています。テストに頼らない多様な評価方法や、子供の内省を促すアプローチは、日本の小学校現場でも「点数だけでは見えない力」を見取り、子供たち一人ひとりの成長を後押しするための大きなヒントとなります。
もちろん、これらの実践を一度に全て完璧に行う必要はありません。日々の忙しさの中で、まずは「観察メモを一つ増やしてみる」「簡単な振り返りシートを試してみる」など、できることから少しずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。フィンランドの事例から学びを得て、日本の教育現場で子供たちの多様な可能性を引き出す評価のあり方を一緒に探求していきましょう。